魔法少女リリカルなのは ネメシス 〜真〜
ミッドチルダ 新暦71年 ―12月―
薄暗く、ただ安物のベンチが置かれているだけの殺風景な通路。
そんな通路の一角で二人の女性がベンチに腰掛けていた。
二人とも項垂れている。
無理も無い―。
二人が今腰掛けているベンチをベッド替わりに、この隔離施設に寝泊りするようになってから既に半年。
体力的にも精神的にも、憔悴しきっているのだ。
特に髪をサイドポニーで結っている少女の憔悴ぶりは酷かった。
目の下には濃いくまが出来ており、頬もくっきりと痩せこけていた。
もし半年前の彼女と今の彼女とを比べれば、殆どの人間が別人だと思うだろう。
否―。
もしかすると、彼女は既に別人なのかも知れない。
かつて『不屈のエース』と呼ばれ、多くの人間が憧れた彼女の―、
高町なのはの輝きは、最早見る影も無かった。
『なのは?』
な「!?ユーノ君!」
スピーカーから聞こえてきた声にビクッと体を震わせ顔を上げるなのは。
ユ『ああ、やっぱり居たんだ。おはよう―』
とても穏やかな声で語りかけてくるユーノの声。
だがその声が穏やかであったが故に、なのはとその隣の女性―リンディ・ハラオウンの心は抉られるような痛みを覚えていた。
な「お、おはようユーノ君・・・。」
ユ『ごめんね、直ぐに気付かなくて。ちょっと考え事してたから。』
な「気にしなくて良いよ、今帰ったところだし。」
な(嘘だ・・・。)
ユーノの嘘に直ぐに気付いたなのはは、「良いよ」の辺りから堪え切れなくなり、涙声になってしまう。
この、ユーノを映し出している幅3メートルはある巨大なモニターは、こちら側がONになっていれば、
向こう側―ユーノの方のモニターもONになり、こちらの様子を映し出すように出来ている。
モニターはユーノが声を掛けるより前からONになり、互いの様子を知らせている筈なのに、
ユーノはなのはがそこに居るかどうかを確かめた。
つまり―
な(とうとう眼もやられたんだね・・・。)
ユーノの眼は見えなくなったのだ。
ユ『もうすぐ、・・・お別れなんだ』
まだジュエルシードを集めていた頃によく見せていた、どこか寂しそうな笑顔でそう告げられてから半年。
その言葉が事実である事を、彼自身の身体が証明し続けている。
彼の身体は日に日に別れ、・・・死へと近づいていた。
第1級殲滅指定古代遺失物『アルゴル』。
かつて、とある世界で最終兵器として開発された最悪のロストロギア。
自らを生み出した世界を滅亡させた後も、あらゆる次元世界へとその猛威を広げ続けるウィルス兵器。
ユーノの身体を蝕んでいるウィルスは、そのプロトタイプと目される物だった。
半年前、新たに発見された遺跡からロストロギアらしきものが発掘されたとの報告があり、
その調査・引渡しにユーノと数名の武装局員が出向いた。
が、ユーノが遺跡に着いた時、偶然にも今まさに盗掘が行われている最中だった。
当然ながら武装局員が盗掘犯を逮捕しようとしたのだが・・・。
自棄になった盗掘犯はロストロギアを作動させた。
ユーノが、そのロストロギアが細菌兵器の類だと気付き、
それ以上の拡散を防ぐ為に遺跡を結界で覆った頃には、ユーノ自身も感染していた。
この事件の被害者はユーノを含めて11名、ユーノ以外は3ヶ月も前に全員死亡している。
な「それでね、アリサちゃんったらね・・・」
ユ『アハハ、それは痛いなァ』
リ(もう、限界・・・いいえ、手遅れだわ)
泣きながらユーノに語りかけるなのはを、死を目前にしながら穏やかな笑みを湛えるユーノを見ながらリンディは思った。
フェイト達が半年前から行っている、ウィルスを除去できるロストロギアの捜索は絶望的だ。
恐らく、もうユーノは助からないだろう、そして今のなのはにその現実を乗り越える事など出来はしないだろう。
一月後か一週間後か、それとも明日か―。
そう遠くない未来にユーノは死ぬ、奇跡でも起こらない限り。
勿論リンディは願っている、奇跡が起きる事を。
なのはもフェイトも、はやてもヴォルケンリッター達も。
ユーノと親しい者は皆、奇跡を願っていた。
そして―
奇跡は起こらなかった。
新暦72年 ―1月―
事件が起こった。
高町なのはが率いた部隊が新発見の遺跡の調査中、砲撃魔導師によるものと思われる攻撃を受ける。
この攻撃での被害は軽傷者7名、重傷者1名。
犯人は遺跡内に在ったロストロギアを盗み逃亡―、行方不明となる。
なお、この事件で重傷を負った高町なのはは、戦技教導官を辞任。
無限書庫への人事異動を願い出る。