□ 5年目の旅立ち(前編) □
皆さん今日は、高町ヴィヴィオです。
機動六課が解散して5年経ち、今は新暦81年・・・なのですが。
実は最近、私には悩みがあるんです。
その悩みというのは―
ヴィ「なのはママ、おはよう!」
な「うあ!?・・・頭が。ヴィ、ヴィヴィオ静かにしてェ・・・」
ヴィ「二日酔いする人が悪いの!」
な「うにゃあぁぁぁ・・・」
と、この困ったちゃんなお母さん、なのはママの事です。
私のお母さん、なのはママは高町なのはって言って、時空管理局の戦技教導官という職に就いています。
いろんな人から頼られたり、憧れの的になったりする責任の大きい立場なんですが、
な「うぅ・・・」
ここ3年くらい、休みの日にはいつもこんな感じです。
ヴィ「ハイ、お水とお薬」
な「ありがとぅ・・・」
ママがお酒を飲みだしたのは5年前、と言っても六課の解散が原因ではありません。
原因となったのはたぶん、というか間違いなくその後に起こった出来事です。
飲む度に少しずつ量が増えていき、今では大酒飲みとなってしまいました。
ヴィ「早く片付けてね?今日はフェイトママ来るんだし」
な「うぅ、ご免なさい」
ノロノロと片付け始めるなのはママ。
その姿は普段とは違ってすっごくだらしがないです。
フェイトママやスバルさん達が見たら泣いちゃうだろうなぁ・・・。
な「う゛〜〜〜」
頭痛に呻きながらお酒の缶や瓶を片付けていくなのはママ。
毎週1回、お休みの日の朝には毎回こんな光景が見られます。
私との時間を作ろうと祝日以外はお休みを合わせてくれるのは嬉しいんだけど、
いつも二日酔いで朝を潰してるし、こんなママをあんまり見たくないので、
時々「もうお休み合わせなくてもいいよ」って言いたくなります。
けど、そうするとお仕事が忙しいママとは会う時間が殆ど無くなってしまいます。
どちらかと言うとそっちの方が嫌なので、この状況を受け入れるしかないというのが現状です。
フェ「今日は〜。ヴィヴィオ、なのは、二人とも元気だった?」
ヴィ「フェイトママいらっしゃい〜。うん!元気だったよ♪」
な「いらっしゃい、フェイトちゃん」
今日は久しぶりにフェイトママがお家に来てくれました。
フェイトママはヴィヴィオのもう一人のお母さんです。
フェイトママはなのはママと同じ、時空管理局という所で執務官というお仕事をやっています。
いろんな世界を行ったり来たりする忙しい職業なので、
私の家に来るどころかフェイトママ自身の家にもあんまり帰れないそうです。
フェ「ヴィヴィオ、なのはまたお酒飲んでた?」
ヴィ「うん・・・量もちょっと増えたみたい」
お昼を食べた後、フェイトママと二人で洗い物をしている最中、フェイトママがなのはママについて聞いてきます。
あ、ちなみになのはママは洗濯物を取り込んでるのでキッチンには居ません。
フェ「そっか、やっぱり止められて無いんだね」
予想してたみたいでそんなにショックでは無かったみたいだけど、溜め息を吐くフェイトママ。
ずっと前、フェイトママが私やなのはママを驚かそうと連絡無しで家に来た時に、
二日酔いで寝込んでるなのはママに怒って大喧嘩した事が有りました。
その時に「お酒を控えるように!」(ホントは飲むなと言いたかったけどなのはママはもう25歳、
お酒を飲むのは本人の自由なので強く言えなかったみたいです)って、フェイトママがなのはママに言って聞かせたんですが、
効果はあんまり無かったみたいで―、2週間後には元の量に戻ってました。
フェ「お酒で逃げてても仕方が無いのに・・・」
ヴィ「仕方ないよ。なのはママ、自分では原因が分かってないんだもん」
さっきの3倍くらいの溜め息を吐いて、フェイトママは、
フェ「やっぱりソレが一番の原因だよね」
そう言ってもう一つ溜め息を吐きました。
夕方、フェイトママは地球に在るお家に帰ります。
フェ「それじゃあ、今日はもう帰るね」
久しぶりにリンディお婆ちゃん達と一緒に過ごすんだと楽しそうに話してました。
な「うん、また遊びに来てね?」
ヴィ「フェイトママ、またね」
最後に一言、
フェ「ヴィヴィオ、なのはのお世話、よろしくね?」
ヴィ「は〜い」
な「うぇ!?酷いよ二人とも〜」
きっちりなのはママを虐めて行くあたり、只者では無い感じがしたりします。
それから20日、事態が変化し始めました―。
ただし意図的に。
な「ただいまァ!!!」
玄関から大声が聞こえます。
なのはママです。
ドタンバタン、少しだけガチャンッという破壊音が鳴ります。
大丈夫、いつもの事です。
なのはママは3ヶ月に一度、こんな風に大慌てで帰ってくる日があるんです。
理由は一つ、
な「ヴィヴィオ!!」
ヴィ「なのはママお帰り〜」
な「ユーノ君からのDVDは!!?」
なのはママがお酒を飲むようになった原因の人からのお便りの所為です。
リビングのドアを勢いよく開けたなのはママは明らかに慌てています。
ユーノさんからのDVDレターが届く日、ママは1日中こんな感じです。
きっといつもの様に、今日の分の仕事も明日やり直すに違いありません。
ヴィ「テレビの前のテーブルに置い」
な「ありがとう!!!」
こっちが言い終わる前にテーブルへと突撃していくママ。
ホント、何で気付かないんだろ?
ユ『なのは、ヴィヴィオ。二人とも元気にしてるかな?』
な「うん!元気だよ♪」
画面に映し出されたユーノさんに元気よく返事をするなのはママ。
ヴィ「はい、元気です」
私もお返事します。
こういうものは恥ずかしがらずに受け答えするべきだとすずかさんも言ってました。
―5年前の事です。
管理局の次元調査船、ミッドチルダを中心とした管理世界と呼ばれる世界群、
その世界群の更に外側の次元空間とそこに存在する世界の調査を行っている調査船が、
新たに世界を発見しました。
実に50年ぶりの事らしいです。
広大な次元空間で未発見の物を、しかも次元空間の外にあるものを探すというのは凄く難しい事なのだとか。
世界を跨いだ転送の際に、正確な座標の詠唱が必要だったり、既に知られている世界へしか行けないのはその為なんだそうです。
その新しく発見された世界では、人間並みの知的生命体の類は発見されず直ぐに大規模な調査が開始されたんですが、
調査開始後、その世界で今のミッドチルダ以上だと想われる高度な文明の跡が見つかったのです。
管理局は考古学者を派遣しようとしましたが、その世界にはランクB以上の魔法使用生物が多く存在していて、
B以上の魔導師ランクを持った局員、もしくは嘱託魔導師しか跡地へと送れないと判断。
そこでAランクの魔導師で考古学者でもあるユーノさんへと白羽の矢が立ったんです。
管理局も最初は無限書庫の運営と跡地の危険性を秤にかけていましたが、
JS事件の直後という事もあり、ロストロギア怖しという事でユーノさんの出向が決まりました。
それが5年前。
以来ユーノさんは一度もミッドチルダに帰って来てません。
それが、なのはママがお酒を飲む理由。
ユーノさんの居ない寂しさに耐えかねて、お酒で紛らわしてるんです。
ただ困ったもので、本人はその事にまったく気が付いてないんです。
な「どうしてお酒飲んじゃうんだろう?」
とか、
な「どうしてもユーノ君のお便り見ちゃうの」
とか良く言ってます。
あ〜あ、ホントに困ったお母さんなんだから。
ユ『このレターが届く頃にはこの遺跡の調査も終わって、次の遺跡に取り掛かれると思うんだ』
そして、その間ユーノさんとのやり取りはこの地球の記録媒体のDVDを使ったレターで行っているという訳です。
DVDを使うのは、なのはママ達の拘りらしいです。
良くは分からないんですけど。
な「ユーノ君、相変わらず忙しそうだなァ・・・」
このDVDが届くのは約3ヶ月に一度。
3ヶ月な理由は、ユーノさんが居る世界まで最速の貨物船で片道46日+荷物の積み込み等で1日、
つまり往復で93日掛かるからです。
勿論90日に一度しか船が出ていないという訳ではありません。
23日毎に船が出ていますが、
なのはママもユーノさんもお互いのDVDレターを見て、そのお返事を出し合うようにしているので・・・。
後、金銭的な問題も加わってます。
距離が距離なので私用の運搬は料金が凄い事になってます、通信料も同じです。
そんな訳でユーノさんとの連絡は、殆どが3ヶ月に一度の割合になっています。
フェイトママ達もそうしてるみたいです。
なのはママはお休みの前日、私を寝かしつけた後に、このDVDをずっと見ています。
そして、その間にお酒を飲み始めてしまうみたいです。
酔わずにやってられるか!というヤツです。
ユ『生態系の情報も十分な量が集まってきたよ。前にも言ったけど、人が住める環境の星の殆どで同じ種類の植物が』
一度だけお酒を飲んじゃうなら、とDVDを処分してしまった事もあります。
あの時は・・・地獄でした。
次のレターが届くまでの間、魔王モードで一言も喋らないなのはママと過ごす破目になって・・・。
ちなみに、この間になのはママと会った人たちは、ママの飲酒を何とかするのを諦めました。
ユ『もうそろそろ時間だね』
な「え?・・・ホントだ」
目に見えて気落ちするなのはママ。
なのはママとユーノさんは、元々何ヶ月も会えないなんて事が多かったので、
最初の頃はなのはママも平気だったのですが。
ユ『あ〜、でさ、実は〜』
な「?」
3ヶ月に一度、たった1枚のDVDでしか接点が無いまま5年、コレにはさすがに参ってしまっていました。
なのはママは友達だと言っていますが、やっぱりなのはママにとってユーノさんはそれ以上の存在だと思います。
その証拠に、
ユ『結構余裕が出来てきたから、一度ミッドに戻ろうかと思うんだ』
な「ええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!?」
ほら、こんなにも嬉しがってるんだもん。
つづく