友達? ユーノとアルフ
ア「ほい、ユーノ取ってきたぞ〜♪」
ユ「有難う、アルフ」
ココは時空管理局、無限書庫内。
管理局で最も忙しいと言われる部署である。
ア「・・・にしても二人だけだとホントに静かだねェ、ココ」
ユ「そうだね、もう10年も勤めてるから意識しないけど、物音一つ立たないからね・・・」
そんな多忙な部署だというのに今仕事をしているのはユーノとアルフの二人だけだった。
ア「10年か・・・もう、そんなになるんだねェ」
少し、辛そうな表情でアルフはそう呟いた。
それは、なのはやユーノが管理局で働き始めてから暫くたったある日の事。
■Tacitum vivit sub pectore vulnus.Quod si curam fugimus, virtus fugienda est.■
ア「新形体、子供フォーム!」
唐突に大声を上げるアルフ。
傍から見れば危ない女に見えただろう、今までならば。
ア「いや〜、思ってたより便利だねェ、子供ってのは♪」
よほど浮かれているのか考えた事がそのまま口から出ている。(元からそんな性格な気がしなくもないが)
幸いな事に周囲には人影一つ見当たらないので、奇異の目で見られる事はない。
ア「フェイトに負担は掛けないし、食堂でプリンおまけしてもらえたし、何より肩がこらない!良い事尽くめだよ♪」
だが、たとえ人が居たとしても今の彼女の姿でならば、それほど不気味がられたりはしなかっただろう。
ア「今日からはずっとこの姿でいようかねェ♪」
今のアルフは10歳前後の少女の姿、しかも彼女の明るい雰囲気が全身からにじみ出ている。
独り言を呟くその姿も、見て取れるほどの浮かれ方と相まって、微笑ましい光景にしか見えなかった。
ア「ユーノの奴、この姿見たらビックリするだろうね、クフフ♪」
そう、既にお気付きの事だろうが、この日はアルフが人型で子供の姿を取った初めての日なのである。
ア「しかしユーノも大変だねェ、管理局に入ってからまだ1年も経ってないのに、
自分の部署がいつの間にか1番忙しいトコになっちまったんだもんね」
無限書庫への資料請求は日に日に増えている。
今のところは次元世界で任務中の、アースラのような巡航艦のクルー達からの請求が主だが。
だんだんと本局や各支部からの請求も増えているらしい。
ア「このまま行くと、司書の連中全員過労死するんじゃ・・・?」
そんな事を考えているうちに書庫へと着いた。
ア「さて、気合入れるか!」
アルフは無限書庫へ遊びに来た訳ではない。
先日、フェイトとクロノが関わっている事件に必要な資料の作成をユーノに頼んだのだが、
事件が急展開を見せ始め、直ぐにでも資料が必要となったのだ。
そこでアルフが少しでも早く資料を作成する為、ユーノの手伝いをしに来たのである。
ア「お邪魔しま〜・・・す?」
勢い込んで書庫へと入ったアルフは目の前の光景に驚いた。
ア「ちょいと、ユーノ!どうなってるのさ!?」
ユ「うわ!?何その格好?」
無限書庫を数百メートル突き進みようやくユーノを発見し、この状況はいったい何なのかと問いただすアルフ。
一方魔力の波長からアルフが接近してきている事は知っていたが、子供形体は初見なので何事かと問うユーノ。
ア「そんな事はどうでも良いんだよ!それよりこいつはどうなってんだい!?」
ユ「いや、どうでも良くはないような・・・」
ア「良いつってんだろ!」
ユ「ぐえ!は、はい・・・」
カツアゲ式チョーク攻撃により軍配はアルフに上がった。って違う違う。
ア「何でユーノの他に誰も居ないのさ!?」
ユ「え〜とォ・・・」
そう、アルフはこの状況、ユーノ以外に誰も司書が居ないという状況に驚いていた。
無限書庫は現在管理局で1番忙しい部署だ。
休みの時間中ならともかく、今は局内の時間で午後2時。
いつもなら司書達が忙しく宙を行き交い、さながら養蜂場の蜂を思わせる働きっぷりを見せている時間なのだ。
それが今日に限ってユーノ以外誰も見あたらないというのは、余りに異常な事態だった。
ア「さっさとお言いよ!」
無限書庫立ち上げの際、司書に抜擢されたのは、皆、事務を仕事としていた局員だった。
その為ユーノの様に現場に借り出された何て事はまずない。
当然ながら、警察機構も兼ねる時空管理局の1部署が、こんな風に人が居なくなるような休暇を組んだりもしない。
ユ「その、何て言えば良いのか・・・」
ユーノにしては妙に歯切れが悪い。
それほどまでに言い難い事なのか?と疑問に思うアルフの脳裏に先ほどユーノへと近づいている時の光景が過ぎる。
ア「まさかとは思うけど・・・、イジメかい?そんな素振り今までなかったのに」
広大な無限書庫の中、一人浮かんでいるユーノの姿はそんな事を連想させた。
ユ「いや、イジメではないと思うんだけど」
ア「じゃあ、いったいなんだって言うのさ!」
先ほどの連想が頭に血を上らせ、更に激昂していくアルフ。
ア「アタシには言えないってのかい!?」
アルフとユーノは結構仲が良い。
フェイトにとって始めての友人がなのはならば、アルフにとっての始めての友人はユーノだった。
最近はザフィーラとの付き合いの方が濃くなってきてはいるが、
それでも自分とユーノは何でも話し合える仲だとアルフは思っている。
だからこそ、ユーノの歯切れの悪さに腹が立っていた。
人間の姿をしたままで、グルグルと犬科特有のうなり声を上げながらユーノを睨み付ける事しばし。
ユ「・・・ハア、解かった。話すよ。見られちゃったんだしね」
今度こそ本当にアルフへ軍配が上がった。
ア「良し、さっさと話しな」
ユ「その前に手、放してくれる?」
ア「あ、悪い悪い」
ようやく開放されたユーノの服は、すっかり襟が伸びてしまっていた。
ア「で、いったいどうしたってんだい?何で他の連中がいなくて、アンタ一人で仕事してんのさ?」
ユ「一言で言っちゃえば、皆ストライキ中かな?」
ア「はあ!?」
ア「つまり何かい?皆忙しさに耐えられなくなったってのかい?」
ユーノの話によれば、ここ数週間、深夜までの残業や徹夜での仕事が続いていたらしい。
このままでは死んでしまう。
そんな声が司書たちの間で持ち上がるものの、舞い込む資料請求の数は日に日に増すばかり。
とうとう司書達はストライキに踏み切ったというのだ。
ただ、デモ行進や座り込みを行う元気もない為、抗議文の提出のみとなったのだが。
ア「そんな・・・」
あまりの事に絶句するアルフ。
以前から失神者が続出する等、無限書庫の忙しさは度を超してはいたが、
仮にも平和維持の義務を持つ管理局員がストライキを行うなど前代未聞の事だった。
ユ「僕は何も聞いてないから抗議文の鵜呑みでしかないけど」
一瞬、アルフはユーノの言葉を理解しきれずに頭が真っ白になった。
ア「聞いてないって・・・。ストライキだろ!?なのにユーノには声が掛からなかったってのかい!?」
ユ「うん、まあ」
普通ストライキといえば同じ職場の人間全員を巻き込んで行われるものだ。
ストに参加せず働いた者は、スト破りと呼ばれ嫌われるのが普通である。
その為、同じ職場の人間には必ず声が掛かるものなのである。
それがユーノには知らされてなかった、と言う事は・・・。
ア「それじゃまるでユーノに対して文句付けてるみたいじゃないか!?」
ユ「そうなんだろうね」
平然と言ってのけるユーノの様子に、アルフはさらに絶句した。
ユ「僕が悪いんだ。皆疲れてるのは解かってるのに、依頼を断らないからさ」
ア「だからって・・・、疲れてるのはユーノも一緒じゃないか!」
ユ「皆もそう思ってくれてるんだと思う」
ア「だったら何で!?」
ユ「それでも我慢できないくらいに追い込まれたって事じゃないかな?」
ア「そんな・・・」
ユーノは微笑を浮かべている。
それがユーノの言葉が真実であると告げていた。
少なくともユーノ自身は本当にそう解釈し、受け入れているのが見て取れる。
ユ「それで、アルフは何の用でここに?こないだの資料の催促かな?」
ア「へ!?ああ、直ぐにも必要になりそうなんで手伝い・・・に」
何を言えば良いのか思い悩んでいる最中だった為、うっかり当初の目的を喋ってしまってから気付く。
ア(手伝いも何も、こんな状態で仕事になる訳ないじゃないか)
そう思ったのだが。
ユ「じゃあ今日はその分に絞ろうか」
ア「へ?」
またもや驚かされる事態になった。
それから数時間。
ア「え〜と、こいつで良いのかい?」
ユ「うん、有り難う」
二人は作業を続けていた。
ユーノは坦々と、アルフは本一つ選ぶのにも何度も考え込みながら。
最初の内はアルフが「無理しなくていいから」と断っていたのだが、ユーノは作業を止める気配を見せない。
無理にでも止めさせようかとも思うのだが、
フェイトに必要な資料なのだという思いが歯止めを掛け強く出ることが出来ず、
仕方なく作業を続けているのだが。
ア「・・・」
ユ「・・・」
自然と口数が少なくなる。
ア(うぅ・・・、もう何言えば良いのか解かんないよ)
しかも、この数時間の間に6回も資料請求があり、その度にユーノは断る素振りも見せず気の良い返事を返していた。
最初はアルフが
ア「忙しすぎてこんな事になったのにこれ以上受けてどうすんのさ!」
と叱り付けたのだが・・・。
ユ「でもさ、人の命に関わる事だから」
そう言われては引き下がるしかなかった。
更に2時間が経過した頃、ようやくアルフが口を開いた。
ア「ユーノ、あのさ・・・」
ユ「ん、何?」
ア「アンタ、辛かったり、寂しかったりしないのかい?」
ア「あの時ユーノが、え?別に。って言ったのが切っ掛けでアタシャ、無限書庫で働こうかって思ったんだよね」
ユ「え?そうなの?」
ユーノとアルフは作業を続けながら話し込んでいた。
10年前とは違いアルフの動きにぎこちなさは無く、この仕事に就いて長い事をその動きが示している。
ア「だってさ、ユーノ資料頼まれたら絶対に断らないだろ?」
ユ「いや、ちゃんと断るべきかは考えてるよ?考えた上で全部受ける事になってるだけで」
ア「それが問題なんだよ、アンタまた皆がストライキ起こしても自分一人で調べりゃ良いか。って思って受けちまってるだろ?」
ユ「そ、そんな事は・・・」
そう言いつつもユーノの目は泳いでいる。
ア「その証拠に、今日だってストライキ起こされて誰もいないってのに、アタシ等だけで仕事してるじゃないか」
ユ「・・・仰るとおりです」
申し訳なさそうに頭を垂れるユーノ。
ア「大体ねェ、全員辞めちゃったりとかしないのは皆がお人よしだからだよ?
アンタは疲れが溜まらない特異体質なのかもしれないけど、
もう少し人の上に立ってるんだって自覚を持ってだね、断るものは断らないと・・・」
10分ほど小言が続いた。
ア「話を戻すけど、あの時、嗚呼こいつはホントに辛いとも寂しいとも思ってないんだなァ・・・って思ってさ」
ユ「・・・?それが何でココで働く事に繋がったの?」
ア「だってさ、本人は辛いとも寂しいとも思って無くても、やっぱりこんな所で一人で頑張ってる。
なんてのは、辛くて悲しい事じゃないか。
コレは誰かが・・・絶対にユーノと一緒に仕事続けられるって奴が傍にいてやらなきゃいけないなって思ったのさ」
苦笑しながら話すアルフ。
ユ「アルフ・・・」
ア「最初はなのはに頼んでみようかと思ったんだけどね。
ユーノ、あの時の帰りになのは達に心配掛けたくないから内緒だ何て言うからさ、
そうなると必然的に事情知ってるアタシがって事になるだろ?」
ユ「そっか・・・有り難う」
目を閉じてユーノは静かに笑った。
ア(でもね、ユーノ。アタシは、ホントはこんな仕事辞めて、考古学者の方に専念して欲しいんだ。)
作業を続けるユーノを見ながらそう心で思うアルフ。
ア(だってさ、ココはこんなにも寂しいじゃないか)
周りを見渡す。
先が見えないほどの広大な空間、薄暗く物音一つしない無重力の世界。
どこまでも続く本の海。
その中で一人座すユーノの姿は、とても哀しいものに見えた。
ア(ユーノ、アンタは気付いてないみたいだけどさ。あの時のアンタも絶対、心のどこかで寂しいって思ってたんだ)
その証拠に誰かと居る時、ユーノはいつも笑顔だ。
誰かと共に居る事に喜びを感じる、裏返せばソレは誰かと居るだけでも喜ぶほど孤独なのだという事だ。
だからこそアルフはココに来た。
その事に気付かず、いつかユーノが壊れてしまうのでは?と危惧したからだった。
出来る事なら、考古学に触れている時の楽しそうなユーノのままでいて欲しいのだが・・・。
ア「でもさ、アンタはきっと今のまま、続けちまうんだろうね・・・」
ユ「・・・?何か言った?」
ア「さっさとなのはと結婚しなよって言ったのさ」
ユ「ぶ、僕となのはは」
ア「ハイハイ、分かってるって。さっさと仕事進めなよ」
ユ「ちょっとアルフ!?」
何やらわめくユーノを無視して次の本を取りに行く。
ア(それまではアタシが傍にいてやるからさ)
ユ「僕となのはは、ただの友達なんだからね!聞いてるの!?」