友達?番外編 ユーノとレイジングハート
な「それじゃあ、よろしくお願いします。マリーさん」
マ「ハイ!ばっちり整備しておきます」
それはなのはとユーノが管理局で働き始めて暫らく経ったある日の事。
■ココロ■
マ「それじゃあ始めるね、レイジングハート」
RH<<…お願いしますマリー>>
今日はレイジングハートの定期点検の日。
能力を維持の為には仕方がない事とはいえ、
レイジングハートはこの定期点検が『嫌い』であった。
理由は2つ。
1つは現在の主である高町なのはから離れること。
あの主は自分の体調や能力の不調があっても「リリカルマジカル頑張ります」と
無視して危険へ飛び込んでしまう。
傍で見守るモノとしては非常に心配になる人物だ。
一時の間だろうと、目の届かない場所に居ると思うと気が気ではなかった。
そして2つ目は、
マ「何時もみたいにメモリーが開いたりすると思うけど、流出とかの心配はないからね」
RH<<…分かりました>>
2つ目は、記録していた映像などが勝手に開く現象だった。
全機能の点検であるが故に、自分の中の全ての『記憶』も掘り起こされるのだ。
な「レイジングハート・エクセリオン!」
フェ「バルディッシュ・アサルト!」
RH((また、このシーンですか))
なのはが管理局に入ってから、何度かRHは点検を受けていたが、
この場面を思い出させられる度に、少々不満を覚えてしまう自分に気が付いていた。
RH((あの時、もし別の名を付けて貰えていたら))
更に点検は進み、掘り起こされる記憶は何時もどおり、段々と古いものに代わっていった。
RH((そろそろ…、ですね))
私は、最も古い記憶が掘り起こされることに対して『心』を身構えさせた。
ユ「今日からよろしくね、レイジングハート」
RH<<ハイ、マスター・ユーノ。こちらこそ、よろしくお願いします>>
数時間後、なのはがレイジングハートを受け取りに来た。
なのははマリーといくつか会話を交わしたのち、整備室から退室し、
今は管理局の通路をテクテクと歩いている最中だ。
その方向からトランスポーターを目指していると推測したレイジングハートは
ほんの少し考え込んだ後、なのはへと語りかけた。
RH<<今日はもう、家へ帰られるのですか?>>
な「へ?…うん、そうだよ?特に用事もないし」
RH<<ならば、ユーノの元に行ってもらえませんか?>>
な「ユーノ君に何か用事なの?」
RH<<そういう訳ではありません>>
な「…?」
なのはは困惑した。
レイジングハートが特に用もないのに、ユーノの元に行きたい等と言うのは初めてだった。
RH<<マスター、私は貴方に行って欲しいのです>>
な「私に?」
RH<<ハイ>>
な「…いいけど。」(?)
なのははますます混乱したが、特に断る理由もないのでOKを出した。
そして無限書庫へと向っている最中のなのはにレイジングハートは再び語りかけた。
RH<<マスター、貴方は孤独に耐えかね、涙を流したことはありますか?>>
な「…へ?」
なのはの混乱は更に増していった。
RH<<ここ2年間の間にそういう事が在ったかどうか、知りたいのですが>>
な「2年間で?」
先程から疑問符を上げっぱなしなのはではあったが、一応、思い返してみる。
な「寂しくて泣いたことがあるかって事だよね?」
RH<<そうです>>
な「えっと、ここ最近では…
ユーノ君がフェイトちゃんの裁判の証人になりに行った日の夜と、次の日の朝とかかな?」
とりあえず思い出せたモノを口にする。
な「レイジングハートも知ってると思うけど、ちょっとの間、お別れするだけだって分かってたのに、
寝るときにユーノ君のベッドにしてた籠を見てたら、何だか寂しくなっちゃって。
泣くって程じゃないけど、ちょっと涙が零れちゃったの。
次の日起きたときにも、寝ぼけてる間、もう居ないのに、ユーノ君に話しかけちゃってて…」
後は…と、更に記憶を手繰っていく。
な「後は8歳の頃、すずかちゃんとアリサちゃんが二人とも塾、
忙しくてあんまり遊びに来れなくなった時とか…
2年に拘らないなら学校に通い始める前とかは、結構泣いた事って多いかな?」
RH<<そうですか。すみません、妙なことを聞いて>>
な「別にいいけど、今日はどうしたのレイジングハート?ちょっといつもと違うよ?」
まさか整備に失敗してるんじゃ?と、マリーの事を疑い始めたなのはだった。
RH<<先程の整備の最中に思い出していたんです。ユーノが泣いていた時の事を>>
な「ユーノ君が?」
RH<<マスターは、ユーノが泣いているのを見たことがありますか?>>
な「ううん、ない」
RH<<私も…、1度しか見たことが在りません>>
な「1度?」
RH<<どうしようか迷っていたのですが、やはりマスターには知っていて欲しい>>
そう言うと、レイジングハートはゆっくりと話し始めた。
あの日、ユーノが私を起動させた日は、ユーノが1人暮らしを始めた日でもあった。
いや、正確には『再び1人暮らしを始めた日』でした。
ユーノ・スクライア当時8歳―
詳しいことは私にも分からないが、
どうやらユーノは4歳まで所謂(いわゆる)ストリートチルドレンだったらしい。
偶然、スクライアの食料を漁っていたところを発見され、そのまま一族に保護され、
ユーノ自身もその事を自覚している故に、この1人暮らしを始めたらしかった。
恐らく、感謝しているからこそ迷惑を掛けないように、という事なのでしょう。
そんなユーノの気持ちと性格を、正しく理解していたからこそ一族は、
ユーノの1人暮らしを認め、手向けとして私を送った・・・のだと思う。
私が始めて起動したのは、ユーノが自分のテント(家)に戻ってからだった為、その辺りの事は良く解らない。
ひょっとしたらユーノが自分で作ったデバイスなのかもしれないが、それならもっとユーノに適合しているはず。
そう考えると必然的に、誰かから送られたという事になる。
その辺りが不明瞭な事は、私をずっとイラつかせているのですが、
私がその事をユーノ自身に聞く機会は最早ないでしょう。
とにかく、ユーノと私の生活は始まり―
ソレは起こりました―
私の起動から一月程経った日の夜の事。
その日は、特に何があった訳ではなかった。
何時ものようにユーノは一族の生業である遺跡発掘に精を出し、
皆と笑顔を交わし、皆で食事を取ったり、自分のテントへ戻って、就寝。
いつもと同じ内容の1日―
その筈でした―
深夜。
いつもと同じように、窃盗対策として周囲の動体反応を探っていた私は、
その日がいつもと違っていた事に気が付いたのです。
いつもと違う動体反応が、ユーノのテント内に在りました。
ソレは、閉じられているユーノの目蓋から溢れでて次々と頬を流れていました。
ユーノは…泣いていたのです。
RH<<どうしたのですか!?マスター!>>
始めてみるユーノの涙に動揺した私は、思わず声を荒げて問いかけました。
ユ「…」
しかし、ユーノからの返事は返ってきませんでした。
RH<<マスター?>>
ユ「…スー、…スー」
ユーノは規則正しい寝息を立てて眠っていました。
その顔に、流れ続ける涙が存在している以外は、いつもとまったく同じ顔をして眠っていたのです。
やはり、平気な振りをしていても寂しいのだろう、と
そのときの私はその程度に考えていました。
それから更に一ヶ月が経ち、二ヶ月が経ち―
私は再びユーノが涙を流したときに如何すれば良いのかを考え続けました。
三ヶ月、四ヶ月―
毎日かかさずユーノが泣いてはいないかチェックを繰り返し。
五ヶ月、六ヶ月と月日が過ぎていきました。
そして―
結局それ以来、ユーノが涙を流している姿を見ていません。
な「…そっか。強いんだね、ユーノ君は」
RH<<ええ>>
もしも、レイジングハートが人の身体を持っていたのなら、きっと胸を撫で下ろしたに違いない。
彼女の現主は、先程の話から何が言いたいのかを読み取っていた。
な「レイジングハートは、ユーノ君が強すぎるのが我慢できないんだね?」
RH<<はい、その通りです>>
そして、レイジングハートが何故こんな話をしたのかも理解してくれたようだった。
ユーノにはもっと素直になって欲しい―
それが、レイジングハートの思いだった。
ユーノは、本当はとても寂しいはずなのだ。
それこそ毎日の様に泣いても、おかしくはない位に。
だが、ユーノ自身はその事に気づいてもいないのだろう。
その心のつよさ故に。
その事が、レイジングハートには辛かった。
ユーノには、もっと人に甘えて欲しかった。
な「…もうちょっと急ごうか♪」
RH<<はい、マスター>>
レイジングハートは、新たな主である『高町なのは』が、
レイジングハートが知る限り、ユーノが始めて甘える事ができた人物が、
自分と同じ思いを抱いてくれたであろう事に喜びを感じていた。